SS21



 21世紀になって初めて書いたショートショート。という意味。
 ふと、通勤中の電車で、東淀川駅がリニューアルされたか拙の勘違いか、ずいぶんと新しく立派に見えたので。
 強引にオチをつけないあたり、師匠の薫陶が未だに残っているのかも。
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あら、ネタばらし、しちったY。

無限ループ
野波恒夫

 電車が止まりかけて。ホームに目をやると『新大阪』の駅名が見えた。
 スマホのかたわらにちらっと見た前の駅が大きくて華やかな印象だったから新大阪だと思っていたのだが、勘違いだと単純に考えた。
 こう見えても、新大阪で降りてしまったとか、勤務先の最寄り駅には止まらない私鉄の区間急行に乗ったりとかは、年に何回かはやらかしているので。早めに下車の心構えをつけていると。
 おい。今度が『新大阪』かよ。
 もちろん、時間遡行とかワープとかいった、あり得ない可能性など考えはしない。夢から醒めた夢を見た――というのは、リアルに体験がある。そのたぐいだと思った。
 まったくシラフのときでも。この歳で寝小便なんて御免蒙るぜ――と、舌を犬歯にこすりつけてその痛みで、おそらくたぶん夢ではないと確信してから放尿するなどといった『儀式』をすることもある。
 それと同じこと。今度こそ、リアルだぞと、やや心構えて――――――『新大阪』だと!?
 若年性痴呆症、あり得る。その他、こういった錯覚を生じる精神病は――スマホでチマチマ文字入力をするのはさすがに面倒なので。これで何回目になったか覚えていないが、とにかく、この『新大阪』も乗り過ごして。
 次の停車駅が『新大阪』だったときは、まず収入の心配をした。こんなことが起きるようでは、自分は精神のどこかがおかしい。会社勤めを続けられるとは思えない。
 時刻をたしかめると、定時の四十五分前。ふつうに新大阪駅を乗り越す時刻だった。
 つぎの『新大阪』駅で、意を決して下車してみた。ポスターを探して。イベントの開催日が、自分が記憶していて、スマホにもその通りに表示されている「今日」と矛盾していないのを確かめて――さすがに、拍子抜けしたというか。同じ駅を乗り越すごとに1年が過ぎるとか遡行するとかだと、SFめいてくるのか、本格的精神病か。
 いや。乗り越した分数だけの変動なら、簡単には知覚できない。
 改札を出てはみたけれど。毎日通過するだけの駅だ。『異常現象』にふさわしい非日常など、判別できるはずもない。
 やはり。これが現実で。何度も同じ駅を乗り越したというのは、夢の記憶だろう。
 しかし――ふと、日常の中でときおり考える『答えのない疑問』が、よみがえった。
 自分が自分であり、これまでに何十年も生きてきたというのは――記憶でしかない。しかも、全人生の数カットずつしか残っていない。
 実在と自意識とか、いずれは自己が存在しなくなり最後には宇宙も消滅する。などと感慨というか、底無しの恐怖とかを、ちらっと考えて。
 さて、ほんとうにどうしよう。
 地下鉄に乗り換えてみた。難波まで行って私鉄に乗り換えれば、勤務先へ一直線。
 群衆の奔流に押し流されて、地下鉄に吸い込まれて。
 もしも。つぎの停車駅が『新大阪』だったら。
 発狂か非現実が確定だから。いや。若い女の子でもあるまいし。ストリーキングなんて馬鹿馬鹿しい。痴漢は犯罪で逮捕されたら、事態は進展か悪化かするかな。
 こんなふうに冷静(?)に、たぶん大多数の人間は対処するんだろうな。
 そんなことを考えているうちに、地下鉄がつぎの駅に差しかかった。扉の上の電光表示に示されている駅名は……



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posted by 晴鬼 at 20:17Comment(0)小説