時代劇における考証:小柄と棟打ち

 近現代の話題が続いたので、趣向を変えて時代劇とか。
 筆者の場合、「時代劇」とは江戸時代です。人によっては戦国時代が好きとか、王朝絵巻萌えとか、縄文時代も飛び越えてギャートルズとかもあるんでしょうが、濠門長恭クンは(今のところは)守備範囲外です。
 逆に明治・大正は「近代劇」ですし、敗戦までの昭和は「特高拷問劇」か「ヒロイン戦記」です。
 平成が30年続いて、その前の昭和も「戦後」は現在から80年ちかい昔ですから、そのうち「昭和劇」のジャンルも確立することでしょう。濠門長恭クンは、もう書いています。性の解放が進むとともに、電マとか露出水着とかも登場して、しかも、少々の児童虐待は躾の美名で黙認されていました。教師が生徒にビンタしても、鼓膜が破れでもしない限り問題にはなりませんでした。体操服を忘れた女子生徒を下着で授業参加させてもお咎めなし。淫毛が無ければ猥褻ではないという「公権力のお墨付」の元、ロリータヌード写真集は一般書店で売られていましたし。
 しかも。小説を書くうえで楽なのは、羞恥心のレベルが現代とあまり変わらないというところです。脹脛を目撃しただけで仙人が墜落したりはしません。そのくせ、人前で赤ん坊に授乳したり。湯文字を着けずに丈の短い浴衣を素肌に着せて外を歩かせられるヒロインの羞恥心を「現代でいえば、ノーパンでマイクロスカートを穿いて、ヘソ出しピタTでボディラインを浮き上がらせるようなものだ」などと説明しなくてすみます。もっとも、だからこそ。そこのところを読者が納得してくれれば、『全裸緊縛道中』が、舌噛み切って自害して当然の恥辱だと、ワクワクしてもらえるんでしょうけど。

 では、江戸時代にかぎって話を進めましょう。といっても、300年の太平です。1600年代は、戦国の荒れた気風が残っています。1800年代になると、ぼつぼつ幕末風雲録が迫ってきます。ので、濠門長恭クンは漠然と1700年代あたりを舞台にしています。

 前にも書きましたが、『○○合戦屋』シリーズみたいに、戦国時代に座布団だの姿見だのを出すのは史実に合っていません。
 親子丼も明治です。新し物好きの織田信長が地球儀を飾るのは構いませんが、オーストラリアが描かれていてはチョンボです。種子島銃の銃床を肩に当てて撃つのは間違いです。政治、経済、保険、保健、理科、社会、金融、資本、拳銃、電話、利益、分子、出版、泰山鳴動、一石二鳥、二丁拳銃……漢字を音読みする単語には気をつけましょう。
 どころか、空気も換気も御法度です。考証要集では「窓を開けて風を入れよ」という台詞を紹介しています。
 とにかく、NO_Drillですので。
 もっとも、「初出年代」と「言葉づかい」は、昭和劇でも要注意。濠門長恭クンは同時代を(部分的に)生きてますから身に着いてる筈ですけど。
 「あざーす」「ナウい」「子ギャル」「WKTK」『ラブドール』『ケータイ電話』『パソコン』『F/A18』などなどです。

 NGワード(きゃ、いやらしい♡)は、これくらいにして。
 今回は小柄について、ウンウンチックリと。
 脇差の側面に追加装備してある小刀です。刀の鍔に刀身を通す穴以外にも穴があるのは、小柄[こづか]と笄を抜き差しするためです。
 たびたび『○○合戦屋』を取り上げて、作者には申し訳ありませんが、小兵ですばしこい登場人物が「小柄[こづか]投げ」を得意技にするべく修練するのですが。ヘロヘロだし、バランスが悪いので敵に突き刺さるようには投げられません。なんで、棒手裏剣にしなかったんでしょうね。作者の無知でしょうか。ここらは、名和弓雄御大の受け売りです。時代劇ドラマでも、咄嗟に小柄を投げて危機一髪のヒロインを救ったりしますが、機器一発の小柄では役に立ちません。なお、笄は髷を崩さないように頭を掻いたりする小道具です。
小柄.jpg
 これが、小柄ですね。ハラキリの役にも立ちません。小柄の用途はペーパーナイフとか、ねじ回し以外の目的で使うドライバーの代わり(隙間に差し込んでこじる)とかでしたっけ。今回も画像以外は検索無し。

 刀に言及したついでに、峰打ち(棟打ち)について。
 大刀を正眼に構えて、ガチャッと180°持ち替える。まるきりの間違いです。
 細かいことですが、音はしません。ちょっと揺らしただけで刀身が柄の中でぐらつくようでは、役に立ちません。模造刀で試してみれば、すぐにわかることです。
 さらに、戦闘行動としても大間違いなのです。普通に構えて(人を斬るのが普通かという議論は38万光年のフリーキック)、刀を振り下ろして、まさにきる寸前に峰を返すのです。相手は斬られたと錯覚してバタンQです。そこで
「安心せい、峰打ちじゃ」の台詞が生きるのです。竹刀で叩いておいて、「安心せい、真剣ではないわ」などと言われては、笑ってしまいます。
 前もって峰打ちの形を作れば、相手は斬られる恐れが無いので猛然と掛かってきます。鉄の棒でブン殴られるんですから痛いし、下手すると骨折するかもしれませんが、命は死にません。
 それに、刀身は反っていますから、バランスが変わって太刀筋が乱れます。不覚を取りかねません。峰打ちを堂々と(?)宣言しておいて、逆にやっつけられたのでは、番組打ち切りです。
 まあ。江戸の同心は、犯人を無用に殺傷しないように、刃引きの刀を帯びていたそうですけど。ここらも、まともに描写した時代劇は、映像では皆無ではないでしょうか。
 明治にはいってからの巡査のサーベルがどうだったかは、知りません。
 現代の警察官の拳銃には実弾が込められています。でも、空に向かって威嚇射撃はしません。南米あたりのお祭りで、何百丁ものピストルやらライフルやら(さすがに、散弾銃とかサブマシンガンとか対空砲は無いそうです)が空に向かって実弾射撃されて、落ちてきた弾で人死にが出ることもあるそうです。どころか、大砲を射って軽飛行機に命中させたなんて物騒な国もあるとか。警察官は、近くに水面(水たまりは駄目よ)があれば、そこに向けて、なければ跳弾に配慮しつつ地面に向かって撃つんだそうです。

 さて、次回も江戸時代SM劇の時代考証に続きをやる予定です。

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